健康診断で貧血気味だと指摘されたものの、生活に支障がないからといって放置している方も多いのではないでしょうか。また、貧血の症状はあるものの、診断の指標となるヘモグロビンの値に問題が現れず見逃されている「隠れ貧血」の方もいるかもしれません。
日本人女性は、貧血の割合が多いといわれています。貧血になると、「疲れやすい」「脳の働きがにぶくなる」「立ちくらみがある」など、カラダにさまざまな悪影響を及ぼします。
本記事では、鉄分の基礎知識や鉄分を多く含む食材、鉄分を摂る量や効果的な摂り方を解説しています。
貧血を改善・予防したい方は、ぜひ参考にして下さい。
鉄分を多く含む食材
貧血を改善・予防したい方は鉄分豊富な食材を積極的に摂取しましょう。ここでは、鉄分が多く含まれている食材の一部を紹介します。
食材の種類 |
食材名 |
鉄分の量(可食部100g当たり) |
動物性食品 (ヘム鉄) |
豚レバー |
13mg |
鶏レバー |
9mg |
|
牛レバー |
4mg |
|
牛ヒレ肉(輸入牛肉) |
2.8mg |
|
カツオ |
1.9mg |
|
マイワシ |
2.1mg |
|
卵 |
1.5mg |
|
あさり |
3.8mg |
|
かき |
2.1mg |
|
植物性食品 (非ヘム鉄) |
小松菜(ゆで) |
2.1mg |
ほうれん草(ゆで) |
0.9mg |
|
枝豆(ゆで) |
2.5mg |
|
そら豆(ゆで) |
2.1mg |
|
乾燥ひじき(鉄釜で加工) |
58mg |
|
豆乳 |
1.2mg |
|
厚揚げ |
2.6mg |
(※)文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
鉄分には、動物性食品に多く含まれているヘム鉄と、植物性食品に多く含まれている非ヘム鉄があります。
ヘム鉄はカラダに吸収されやすく、非ヘム鉄はカラダに吸収されにくい性質があります。非ヘム鉄を摂取する場合には、鉄分の吸収を促す食材を一緒に摂るのがおすすめです。
鉄分の役割と摂取量の目安
鉄分は、なぜカラダに必要なのでしょうか。
ここからは、鉄分の役割や適切な摂取量、耐容上限量の目安を紹介します。また、鉄分が不足または過剰摂取した場合のカラダへの影響についても解説します。
鉄分の主な役割
正常な体内には3~4gの鉄があり、70~75%は機能鉄、25~30%は貯蔵鉄に振り分けられます。
機能鉄は、赤血球のなかのヘモグロビンや、筋肉のなかにあるミオグロビンというたんぱく質の構成成分として重要な役割を果たしています。貯蔵鉄は、鉄分が足りなくなったときのためのもので、肝臓や脾臓、骨髄などに蓄えられます。
赤血球(ヘモグロビン)の役割は、カラダ中に酸素を運ぶことです。そしてミオグロビンは、酸素を筋肉の蓄える働きをします。
このように、鉄分はカラダの成長や発達に欠かせない大切な栄養素です。
鉄分の適切な摂取量
続いて、厚生労働省が発表している鉄分の推奨量を紹介します。
年齢 |
男性 |
女性 |
|||
推奨量 |
上限許容量 |
推奨量 |
上限許容量 |
||
月経なし |
月経あり |
||||
生後6~11ヶ月 |
5.0 mg |
- |
4.5 mg |
- |
- |
1~2歳 |
4.5 mg |
25 mg |
20 mg |
||
3~5歳 |
5.5 mg |
5.5 mg |
25 mg |
||
6~7歳 |
30 mg |
30 mg |
|||
8~9歳 |
7.0 mg |
35 mg |
7.5 mg |
35 mg |
|
10~11歳 |
8.5 mg |
8.5 mg |
12.0 mg |
||
12~14歳 |
10.0 mg |
40 mg |
40 mg |
||
15~17歳 |
50 mg |
7.0 mg |
10.5 mg |
||
18~29歳 |
7.5 mg |
6.5 mg |
|||
30~49歳 |
|||||
50~64歳 |
11.0 mg |
||||
65~74歳 |
6.0 mg |
- |
|||
75歳~ |
7.0 mg |
||||
妊婦+2.5 mg (妊娠中期+9.5 mg) 授乳婦+2.5 mg |
(※)厚生労働省「「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書」
とりわけ月経のある女性は鉄分の摂取量が多く設定されているため、毎日の食事に意識的に取り入れることが大切です。
鉄分が不足した場合のカラダへの影響
鉄分が不足すると、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。貧血とは、カラダに酸素が十分に行き渡っていない状態です。
貧血になると、疲れやすい・めまい・動悸・息切れ・立ちくらみ・頭痛などの症状が現れます。また脳内でも酸素が不足してしまうため、思考力や学習能力、記憶力の低下につながります。
機能鉄が不足すると、貯蔵鉄が使用されます。一般的には血液中のヘモグロビンの値で貧血かの判断がされますが、ヘモグロビンの値が正常でも、貯蔵鉄(血清フェルチン値)の値が低くなっている場合があります。この状態を「かくれ貧血」と呼びます。
はっきりとした貧血の症状がある方は、一度医療機関を受診するのがおすすめです。
鉄分を過剰摂取した場合のカラダへの影響
鉄分を過剰に摂取すると、便秘・吐き気・嘔吐・胃腸障害などの症状が現れることがあります。また鉄分が心臓・肝臓・膵臓・性腺・下垂体に蓄積されると、さまざまな症状や合併症を引き起こすこともあるので注意が必要です。
さらに、一度に多量の鉄分を摂ると、鉄中毒となって消化管・肝臓・心臓・脳が損傷を受けることも考えられます。
厚生労働省が発表している鉄分の耐容上限量は次のとおりです。
年齢 |
男性 |
女性 |
3〜5歳 |
25 mg/日 |
|
6〜7歳 |
30 mg/日 |
|
8〜9歳 |
35 mg/日 |
|
10〜11歳 |
35 mg/日 |
|
12〜14歳 |
40 mg /日 |
|
15歳以上 |
50mg/日 |
40mg/日 |
(※)厚生労働省「「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書」
食事から鉄分を摂取する場合には、耐容上限量を超えることはまずありませんが、鉄分を強化したサプリメントや医薬品を取り入れている場合は過剰摂取になる可能性があります。サプリメントや薬剤を使用する場合には、摂取量に十分注意しましょう。
鉄分の吸収を阻害する食材と促進する食材
鉄分を摂取しても、すべてカラダに吸収されるわけではありません。ヘム鉄の吸収率は10~20%、非ヘム鉄の吸収率は1~8%と、思いのほか低いのが特徴です。
特に日本食は、鉄分がカラダに吸収されにくい非ヘム鉄が含まれた食材を使う傾向があるため、日本人は鉄分が不足しやすい傾向にあります。
しかし、食べ合わせを工夫することで効率よく鉄分を摂取できます。ここでは、鉄分の吸収を阻害する食材と、促進する食材を紹介するので、それぞれをチェックしてみて下さい。
鉄分の吸収を阻害する食材
鉄の吸収を阻害する栄養素は、タンニン酸・フィチン酸・ホスビチン・カフェイン・食物繊維・リン酸塩です。これらの鉄と相性が悪い成分が含まれている主な食材は、下記のとおりです。
食材 |
吸収阻害因子 |
お茶 |
タンニン・カフェイン |
コーヒー |
|
紅茶 |
|
玄米やオートミールなどの全粒穀物 |
フィチン酸 |
卵黄 |
ホスビチン |
芋 |
不溶性食物繊維 |
ごぼう |
|
きのこ |
|
ハム・ソーセージ |
リン酸塩 |
インスタント食品 |
|
スナック菓子 |
鉄分の吸収を阻害する食材を極端に避けるのではなく、鉄分と同時に摂取しないよう時間をずらして食べるのがポイントです。
食後すぐにお茶やコーヒーを飲むのを避けたり、食事とサプリメントを飲む時間をずらしたりするのもいいでしょう。
鉄分の吸収を促す食材
鉄分の吸収を促す栄養素は、たんぱく質・ビタミンC・クエン酸・CCP(カゼインホスホペプチド)です。具体的な食材は、下記のとおりです。
食材 |
吸収促進因子 |
肉類・魚介類 |
動物性たんぱく質 |
果物 |
ビタミンC・クエン酸 |
野菜 |
ビタミンC |
牛乳 |
CCP(カゼインホスホペプチド) |
とりわけ、肉類や魚介類の動物性たんぱく質は、ヘム鉄の有効利用性を高めるほか、非ヘム鉄の腸からの吸収を助けます。食材自体にもヘム鉄が多く含まれているので、鉄分を積極的に摂取したい方にはおすすめです。
レバーや赤身の肉が苦手な方は、鶏肉や豚肉の食べやすい部位を選んで鉄分と一緒に摂取するといいでしょう。
まとめ
鉄分が不足すると、カラダにさまざまな悪影響があります。日本人女性は特に貧血になりやすい傾向があるので、鉄分を積極的に摂取しましょう。
鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、日本食には、吸収率の低い非ヘム鉄が多く使われています。鉄分の吸収率を少しでも上げるためには、肉類や魚類のたんぱく質やビタミンCを多く含む果物と組み合わせて摂取することが効果的です。
肉類や魚類自体にもヘム鉄が多く含まれているので、鉄分の摂取と吸収のサポートが同時に行えます。
コーヒーや紅茶、お茶に含まれるタンニン酸やカフェインは、鉄分の吸収を阻害します。食後に飲む習慣のある方はタイミングを少しずらすといいでしょう。鉄分を阻害する食材や栄養素をチェックして、食べ合わせや食べるタイミングを工夫することがおすすめです。
今回紹介した内容を参考に、鉄不足を少しでも解消し、健康的なカラダづくりに励んでいきましょう。
【監修者】
北嶋佳奈
大学卒業後、飲食店勤務やフードコーディネーターアシスタントを経験し、独立。
2019年に株式会社Sunny and設立。「こころもからだもよろこぶごはん」をテーマに美容・ダイエット・健康に関する料理本の出版、雑誌でのレシピ開発やコラム執筆、ラジオ・テレビ・イベントへの出演などで活動中。
所有資格:管理栄養士